Hey, Do you remember?


「ウチのおばあちゃんがぼけちゃってさ。この前、お見舞いに行ったら、『お名前なんていうの?』ってあたしに訊いたんだよ。もうホントに、あたしのこと、わかんなくなっちゃったんだなぁと思ったら、やっぱり、すっごいショックでさぁ・・・」



多分、もう長くないんだよね、と、苦笑いしながら彼女は言いました。
何も言うべき言葉が見つけられないけど、自分にもいつかそんな日が来るのかと思うと気が重くなるなぁと、彼女の表情を見て思いました。
ただ、「おばあちゃんのこと好きなんだ?」って訊いたら、「うん、そうだねー。」と、彼女は答えました。
「おばあちゃん子だったかも。」



じゃあ彼女はその時、どういうふうに、自分の祖母に自分の名前を紹介したんだろう。





それで、それから、しばらくして、僕はこう思いました。それは、役目を終えた人間の宿命なんじゃないかと。悲しいことも恨みごとも全部忘れて、疎まれて、或いは嫌われて、何の未練もしがらみもなくこの世を去るために。
僕は彼女のおばあちゃんが何をしていた人なのかは聞いていないけれど、彼女のおばあちゃんは、結婚をして、子供・・・例えば彼女の母親・・・を生み育て、そして孫も出来て、その孫ももう成人するまでになった。(そしてその間きっと多くの愛情を彼女らに注いだのだと、僕は想像する。) 人としてその営みを全うしたと言ってもいいと思う。





彼女のおばあちゃんはもう、彼女との思い出を思い出すことはないかもしれない。
だけど、彼女はおばあちゃんとの思い出を憶えてる。もう、それでいいのかもしれない。



そうやって人間は、つながっていくのかもしれない。と思ったら、
人間は素晴らしい。そう思った。